涼風に薄衣

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かれこれ45年ほど前のこと、まだ染色の道に進む覚悟も無かった頃、家人がお土産に買ってきてくれたものが、フイリピン産の薄い薄い布でした。きれい~!!薄くて生成り色の光ったセミの羽の様~。手に取ると空気のような・・。頼り無く、儚い布。それでいてしっかりと張りがあり、光沢もありました。その布はショールで、縁には白い糸でぐるりと刺繍が施されていたのです。ジョーゼットのようなつるつるした感じは無く、極薄なのにしっかりと存在感のある不思議な生地でした。

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お土産として買って来てくれたそれは、本人曰く、とても高価なもので、フイリピンでは地位の高い人やお金持ちだけが身に着けることが出来るものだと半ば自慢げに・・・言っていましたっけ。それからさらに10年ぐらい後、染色を始めていた私に、今度は刺繍のないそのままの生地を現地から送ってきました。何かに染めてくださいという注文です。わあ…困った!こんな薄い生地はとても無理・・・。でもちょうど藍を建てていた時でしたので、この頼りない生地を絞って染めようと思い立ちました。ところが、縫っても空気を縫っているような頼りなさ!それはそれは大変でした。それでも進めていくうちにコツがつかめ、何とか絞りあげ、染めることが出来、納品したのでした。(ああ。。あの時のご批評はどうだったかしらん。。すっかり忘れて~。)

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その後、当時スキューバダイビングに夢中になっていた私は、潜りを兼ねてその布を織って居るフイリピンの島に行き、織手の方に会うことが出来ました。それこそがこのピニアという生地です。ピニアはパイナップルの葉の繊維を績んだ糸で、手で織ります。縦糸も横糸もパイナップルの糸です。茎をしごいて透明な細い糸を取りつながずにちょっと撚って繋ぎ、細い細い糸は生き物のように籠の中にたまっていきます。経糸が切れるのを嫌って量産のため縦は絹糸にして織ったものもありますが、それもピニアと言われます。ですから100パーセントピニアなのか。ちゃんと一本ずつ濡らしながら績んだ糸を使っているのか、細かくしたピニアの繊維を機械で紡績した糸を使っているのかで値段はまるで違います。紡績されたものは残念ですが張りは少ないのです。更にこちらにギャラリーが出来、展示する場所も出来た10年後、夜にライトを当てて藍染のピニアを重ねて見た瞬間、その透けた何とも言えない妖しげな美しさに声を飲みました。すごい!小宇宙のように藍の中に絞った模様がたゆとう。。

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ゆらゆら。。。きらめいてそれは奇麗なのです。インテリアに制作する機会が増えました。イタリアでの展示会の時は300メーターほどのピニアを買い込みすべて藍染で制作。ただその場所はやはり西洋建築の石の建物で、今思うとあまり効果は出ていなかったように思います。なぜならその後、仙台の博物館での、外の光が入り込む展示室での展示の時のような、荘厳で華やかなピニアの表情はなかったからです。インテリアだけにピニアを使っていた時代は20年以上続きます。そんな中、コートなら出来るかなと、私用に仕立てをお願いしたのです。ちろん和裁やさん泣かせ。。数年着てみました。

少しも傷まず、十分に持つということが解り、お客様にお勧めすることが出来るようになりました。

そして。。遂に45年もの歳月を経て、ようやく此の夏帯にたどり着くことができました。此方です。

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ピニアがこうして私の中で長い時を経て、やっと着物の世界にたどり着いた・・・。そんな感慨があります。

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また新たな試作を発表できますように・・と、どうやら私とピニアの付き合いにおしまいは無いようです。

4 comments

  1. このピニアに魅せられて益々制作意欲がわいてきたのですね。
    長い付き合いでその魅力の芯に触れて素敵な作品へと生まれかわったピニアも幸せだと思います。

    • 私 ほんとにピーニアが 好きなようです(笑)
      今度は2枚重ねをしてみたい。。。空想から実現へ・・

  2. ピニアコートを着ていると必ず素敵ねと褒められます。
    先日、染織家の木村孝さんにパイナップルの繊維だと伝えると、フィリピンの高貴な布だと教えていただき、「素晴らしいものだから大事になさい」とも。
    生まれて初めて触れる質感で、薄くて繊細なのに張りもあって。
    兵児帯も欲しいな〜と妄想しています(笑)

    • コメントありがとうございます。ご自身のコートをアップさせていただきました。
      ピニアの兵児帯だけでなく名古屋も素敵です。
      また来年はぜひ!!

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